
「1on1」という言葉を、耳にしたことはあるでしょうか。何となく聞いたことがあっても、いざ実践しようとすると難しいもの。そこで今回は、"経営と現場をつなぐ人材育成パートナー"として、人材育成支援・研修事業を専門とする 大阪経営クリニック株式会社の三好が、全5回にわたって「忙しい経営者のための面談講座」をお届けします。この連載では実践しやすい内容を中心にご紹介していきますので、ぜひ日々の面談にお役立てください。
1on1とは、上司と部下が定期的に行う、1対1の対話の時間のことです。大企業ではすでに広く浸透していますが、特に中小企業の経営者の中には「言葉は知っているけれど、自社では取り入れていない」という方も多いのではないでしょうか。1on1に限らず、そもそも従業員とじっくりキャリアや将来について話す機会自体がない、という会社も少なくないでしょう。
一般的に、1on1は月1回など、定期的に時間をとって実施されます。業務の進捗報告や指示出しの場ではなく、主役は部下。上司は「聞き役」に徹して、部下のキャリアや悩み、モチベーション等について対話します。
普段から雑談はできていても、キャリアや価値観についての対話となると話が変わってくることも。「うちは風通しがいいから大丈夫」と思っている経営者でも、実はこうした一歩踏み込んだ話ができていないケースは珍しくありません。1on1は、まさにその"一歩踏み込んだ対話"のための時間なのです。
あなたは従業員一人ひとりのことを、どれだけ知っているでしょうか。「将来どうなりたいか」「何に興味があるか」「どんなことにやりがいを感じるか」—こうしたことを、把握できていますか?
人手不足が続く中、以前のように時間をかけたOJTさえも難しくなり、日々のコミュニケーションはどうしても希薄になりがちです。また、「正解のない時代」に突入し、かつてのように決まったキャリアの道筋を歩めば、出世や昇給が約束されているわけでもありません。
従業員の価値観も多様化しています。「どうありたいか」「何にモチベーションを感じるか」は、人によって大きく異なります。
こうした状況では従業員の気持ちに寄り添い、本人にとっても会社にとっても最善の選択をし続けるため、対話を通じて本人の声に耳を傾ける必要があるのです。
1on1は、従業員が自分のキャリアや目標とじっくり向き合う機会です。上司との対話を通じて、目標を考え、行動し、振り返るというサイクルを積み重ねることで、従業員はやがて自らの力でこのサイクルを回せるようになります。
日々の業務をただこなすだけの従業員ばかりの組織と、自ら目標を持って考え動ける従業員が多い組織。どちらの生産性が高いかは、言うまでもないでしょう。
加えて、こうした対話の積み重ねは、上司と部下の信頼関係を育むことにもつながります。話しやすい関係ができていれば、何かトラブルの芽や不満があったときにも、早い段階で相談してもらいやすくなるでしょう。結果として、クレームや問題の早期発見・早期対応も実現できます。
そして何より、従業員が仕事やキャリアに迷ったときに「相談できる相手・場所がある」という土台をつくれることが、最大の効果です。一人で抱え込んだ結果、ある日突然「辞めます」と切り出されてしまう—そんな事態を防ぐことができるかもしれません。
ここまで読んで、「1on1、なんだか大変そうだな」と感じた方もいるかもしれません。しかし、ポイントはシンプルです。
特別なトークスキルがなかったとしても、従業員一人ひとりに寄り添い、一緒に考える。その積み重ねこそが、1on1の本質です。上司や経営者は、答えを教える立場ではなく、応援し、サポートする立場であることを、忘れないでください。
次回は、実際に1on1で「何を話せばよいのか」を、事例を交えて具体的にご紹介します。