
地震大国・日本に暮らす私たちにとって、地震をはじめとする災害は、いつ誰の身に降りかかってもおかしくない切実な問題です。ひとたび建物の倒壊を伴う大規模な災害が起これば、人命救助は時間との闘いになります。
一般的に災害発生から72時間を過ぎると、要救助者の生存率は急激に低下すると言われていますが、建物が倒壊した現場で、瓦礫の下にいる人の位置をすばやく特定することは簡単ではありません。
この課題に、ICタグを用いたRFID技術で挑んでいるのが、株式会社マトリックスです。同社はこれまで、セミアクティブRFID製品の設計・開発・製造をはじめ、自転車レースやマラソン大会でのタイム計測、子どもの見守り、工場・倉庫の安全管理などを手がけてきました。
大阪・関西万博で展示したのは、腕時計型のRFIDタグと持ち運び可能な探知機を組み合わせ、瓦礫の下にいる人の位置や生体情報を取得する「災害時要救助者探知システム」です。
スポーツの一瞬を正確に捉えてきた技術が、人命救助の一刻を争う現場でどのように生かされるのか。万博で得られた手応えと、製品化に向けた今後の展開をご紹介します。
・自転車レースのタイム計測で磨いたRFID技術を、災害救助へ応用
・瓦礫の下にいる人の位置と生体情報を取得する仕組み
・万博で寄せられた反応と、普及に向けた今後の展開
RFIDとは、人や物に取り付けたタグの情報を、電波を使って非接触で読み取る技術です。株式会社マトリックスは、1993年にレース用の非接触ICタグの開発に着手し、1999年にはセミアクティブRFIDを活用した計測システムを製品化しました。
セミアクティブRFIDのタグは、内部にバッテリーを備えていますが、探知機からの信号を受けたときにのみ起動します。常に電波を発信する方式と比べて消費電力を抑えながら、離れた場所から探知できるのが特長です。
万博で展示した「災害時要救助者探知システム」は、このセミアクティブRFIDを災害救助に応用したものです。要救助者が腕時計タイプのタグを身につけていると、救助者が持つ探知機から発せられたLF(低周波)磁界にタグが反応します。タグから返される信号をもとに、要救助者の位置を特定でき、心拍数などの生体情報も探知機へ送信されるため、身体の状態を判断する手がかりも得られます。
LF磁界は、コンクリートや木材、プラスチックなど、金属以外の障害物を通りやすい性質を持ちます。本システムを活用することで、要救助者が瓦礫の下に埋もれて呼びかけに応じられない状況でも、早期発見につなげられると期待されます。
本システムの開発には、株式会社マトリックスのほか、見守りサービスのノウハウを持つ株式会社ミマモルメと、製品設計から成形・組み立てまでを手がける旭電機化成株式会社が参画しました。三社がそれぞれの強みを持ち寄って形にしたのが、今回展示された探知システムです。
万博では、来場者がRFID探知機を自ら操作し、要救助者を探知する体験型展示を行いました。
災害救助を想定した技術に、日常生活の中で触れる機会はほとんどありません。そこで、技術の仕組みを説明するだけでなく、瓦礫の下にいる要救助者を発見するまでの流れを疑似体験できる展示としました。
その結果、期間中は多くの来場者がブースに立ち寄り、雪崩に巻き込まれた人の捜索への活用を期待する声や、「探し物」を見つけるツールとして日常的に使いたいという意見が寄せられました。
こうした万博での反応を受け、同社は「被災者捜索システム」としての製品化に向けた開発を本格化しています。そこから、探知精度の向上や機器の小型化を進め、将来的には実際の災害現場で活用できる製品へと発展させる構想を描いています。
自転車レースのタイム計測で磨かれてきた技術は、入退室管理システムへと用途を広げ、今では災害時の人命救助にも生かされようとしています。
自社の技術をひとつの用途だけにとどめず、社会課題を起点に新たな用途を見いだす。そして、技術や知見を持つ企業と連携し、製品化へつなげていく。株式会社マトリックスの取り組みは、イノベーションを生み出す大きな可能性を示しています。
そして、その第一段階として目指すのは、ハンズフリー入退室管理システムでの国内生産量No.1です。
株式会社マトリックス:https://matrix-inc.co.jp/
株式会社ミマモルメ:https://www.hanshin-anshin.jp/
旭電機化成株式会社:https://asahi-electro-chemical.com/